神社からの帰り道。
私と魔理沙は夕闇迫る空を二人、肩を並べるようにして飛んでいた。
先ほど言われた言葉が嬉しくて同時にすごく恥ずかしくて隣を見ることができないまま。
真正面から受ける風はここちよく、火照る体からいい感じに熱を奪ってくれる。
「なぁ、アリス」
「……何よ」
お互い前を向いたままの状態で不意にかけられた言葉に返事をした。
「あのさ」
「何?」
「………」
「?」
呼びかけておきながら続かない言葉に疑問を感じ、ちらりと盗み見た魔理沙はなんだか思いつめた表情をしていた。
いつもと違うその顔になんだか嫌な予感がして続きを聞くのが怖くなる。
深呼吸を繰り返し、よしっと何かを決心したらしい彼女は一度深く頷くとこちらに振り返った。
その眼はいつになく真剣で、そしてどことなく悲しそうだった。
「アリス。もし、もしも私がこの先」
一言一言、言い聞かせるように紡がれる言葉。
さっきの嫌な感じが質量を増して襲ってくる。
聞きたくない。聞きたくないわ。やめて。
そう私のすべてが続きを聞くことを拒否している。
「お前より先に死んでしまったら」
ひどく悲しげで、でもそれを隠すように笑って彼女は告げる。
「毎日、墓参りに来てくれるか?」
こういう時の予感というのはなぜこうも高確率で当たるものなのだろうか。
カラカラに乾いた喉から絞り出すように発せられたのはたった一言の拒絶の言葉だった。

「嫌」

魔理沙とこうなることを予測してたわけじゃないけど、いずれそうなったらいいなという願望は常に持ち続けてた。
だからこそ、今まで一度も考えなかった日はない。
種族の違い。そして寿命。
人間の命は魔法使いの比じゃないくらい短くて儚くて、そして…脆い。
「案外冷たいんだな」
「冷たい? クールと言って欲しいわね」
光った涙を見なかったことにして。
彼女がいつも通りに振舞うのなら、私もそれに合わせるまでだ。
「クール…ねぇ。あ、じゃあさ、毎週…いや、毎月でいいぜ。それならどうだ?」
「却下」
「ちぇ。仕方ないな。ちょっと寂しいけど、年に一回の命日だけで我慢するか」
「行かないわ」
「え…?」
「行かないって言ったのよ。あんたの墓参りになんて絶対行かない」
冗談めかして話す彼女に目線を合わせ、静かに、そして真剣に告げる。
魔理沙は一瞬だけ本当に寂しそうな顔をしたけれど、これが私の本心だ。
彼女が人間である以上、先に逝ってしまうだろうことは変えようのない事実。
でも、私はそんなことを考えて悲観的になんてならない。なってたまるか。
「そ、そうだよな。アリスはモテるし、別に私がいなくなってもすぐに他の奴が」
「違う、そうじゃない。魔理沙の代わりなんているはずない」
「じゃあ」
「魔理沙は先に死んだりしない。だから墓参りにも行かない」
「…どういうことだ? 私に同じ魔法使いになれって言ってるのか?」
少しうるんだ瞳で見上げる魔理沙にそれも違うと首を振ってみせた。
あんたがなりたいなら止めないけれどと付け加えて。
「あんたは私を一人にしない。もちろん、私だって魔理沙を一人にはしないわ。だって」
耳元に唇を寄せ、彼女にだけ聞こえる声でそっと囁くと、眼前に広がる森の中へとそのままゆっくり降下する。
しばらく飛んでも降りてくる気配がないので、下から見上げる形で振り返ったら、真っ赤な顔で立ちすくんでた。
「何、ニヤニヤしてるのよ。気持悪いわね。さっさと降りてこないと置いていくわよっ」
つられるように赤く染まっていく頬を押さえ、早口でまくし立てると今度は振り返らずに森の中へと進んでいく。
後ろで何か聞こえた気がしたけれど、とりあえずは無視することにした。

家へと向かう途中、ふわふわ飛びながら献立を考えた。
そうだ。今日の夕食は魔理沙の好きなものにしよう。
二人でテーブルを囲みながらゆっくり話を聞くとしよう。


今日ばかりは文句だって聞いてあげるわよ。私の大事な恋人さん。




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