見たくもない夢。思い出したくない過去。遠い記憶。
なぜ なぜなの という思いだけが自分の中を駆け巡ってた。

『…………妬ましい』

最初にその言葉を口にしたのはいつのことだっただろうか。
もう、遥か昔すぎて思い出すこともできない。
そんな私が今になってなぜまたあの頃のことを夢に見たのか。
もしかしたらそれは近くにいるアイツのせい、なのかもしれない。


「どうしたんだ? 今日はいつにもまして不機嫌そうじゃないさ」
「………別になんでもないわ」

そう。別になんでもない。
すべては過去のこと。今更何を思うわけでもない。

私がまだ妖怪になりたての頃。
憎かった二人を、そして周りの親族達をもすべて無に帰した。
それなのに恨みの念は消えることはなく、私の中に留まり続けた。

「……妬ましい」

愛する者を奪っていったあの女が。
簡単に心移りしていったあの男が。
幸せだったあの日々が。
そして今もなおこうしてふいに甦り、私を苛む記憶のすべてが。

「おまえさん、よくその言葉を口にしてるよな」

苦笑交じりに言う。
鬼の言うとおり、私は幾度となくこの言葉を口にしている。

「何がそんなに妬ましいのかは知らないけど、いくらあんたが鬼の形相を浮かべたところで本物には勝てないよ」
「そんな分かりきってることを改めて言ってくる貴女も妬ましいわ」
「そうじゃなくてさ、もう妬むのはやめたらどうかっていう話」
「…なんでそんなこと貴女に指図されなくてはいけないの?」

やめれるものなら、消せるものならとっくに無に帰している。
それができないからこうして―――

「そりゃ決まってるよ。私があんたのことを愛してるからさ。せっかく二人でいるんだ。楽しい時間を過ごしたいと思っても罰は当たらないだろ?」

平然と言いのける鬼に開いた口が塞がらない。

「それからさ、パルスィ」
「な、なによ」

隣を歩く勇儀は笑顔で自分を指すとこう告げた。

「鬼の形相も格好も鬼と名のつくものはすべて私達の特権なんだ。だから私があんたの分まで『鬼』になるよ」

たった一言で私の気持ちも心もすべて持って行く。
そんな貴女が本当に妬ましいわ。




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