ぽつぽつと頬に当たる雫。
一雨来たのかと見上げた空に雨雲なんて見当たらなかった。
晴れているのに雨が降るというなんとも不思議な現象。
「もう少しで森だっていうのにツイてないぜ」
異変を解決した後、家路を急ぐ私たちに降りかかった雨。
空の様子からそんなに長くは続かないだろうと近くの木で雨宿りすることにした。
「こういうの、“狐の嫁入り”って言うのよね」
「狐? 紫のとこの式神のことか?」
小さく呟いた言葉は隣の野良魔女にしっかりと聞かれていたらしい。
少々の驚きを感じつつ、やんわりと訂正する。
「藍は確かに狐だけど、そうじゃないわ。晴れているのに雨が降ることをそう呼ぶこともあるのよ」
「へぇ」
特に興味をひかれなかったらしい。
繋がれたままだった手を離し、どこに入れていたのか小さな袋を取り出して
「アリスもどうだ?」
中を開いてこちらに向けた。
袋の中身は小さな砂糖菓子だった。
色とりどりの星の形に似たそれは口に含むとほんのりとした甘さを残し、すぐに消えてなくなった。
「珍しい物を持ってるのね」
「昨日、里の子供に貰ったんだ」
「そう。なかなか美味だったわ」
そう言って笑いかける私に照れた笑みを浮かべる魔理沙。
その笑顔を見ていると幸せな気持ちが心の奥底から滲み出てくるのがわかる。
小さくて可愛らしい私の恋人。

森で出会って幾年。
ずっと一緒にいて同じ年月を刻み、時の止まった私の側で少しずつ成長していく彼女。
どんなに時が流れようともその微笑みだけは出会った頃のまま、何も変わる事なくそこにあった。
「あ! 雨あがったみたいだぜ」
「え?」
物思いにふけっていると急に手を取られ、一緒に空へと連れ去られていた。
空気をはらんだスカートがふわりと膨らんでまるで風船のようになる。
「アリス見てみろよ」
指さされた方に目を移すと、そこには大きな虹がかかっていた。
「七色の虹。まるでお前の弾幕だな。綺麗だぜ」
手から伝わる温度と心に響く言葉、笑顔。
これらが他の人に向けられる時、私はさきほどの空のように泣くのだろうか。

そんなことをぼんやり思った。



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