その時クラウドは部屋にいた。といっても自分のではない。 彼女−エアリス−の部屋だ。 一見、男が住んでいるのかと思うくらい質素なここは、唯一窓辺に飾られている花が女の子と部屋だと言うことを教えてくれていた。 彼はその部屋の一角にある机に目を向けた。 そこにはこれと言ったものはなく、ここ同様に質素な感じがした。 今、彼の手の中にある一枚の紙がある。 傍からみれば、それはただの紙切れでしかない。 もう一度机の上を見渡し、一番目立つであろう所にそれを置いた。 (…ふぅ。オレは何をやってるんだろうな。柄にもない…) そんなことを思いながらも彼は早々に部屋を後にした。 そしてサッサと自分の部屋に入ってしまった。 それは、今の顔を他人に見られたくなかったからだろう。 彼の顔はトマトが完熟しきって今にも落ちんかと言わんばかりに真っ赤になっていたからだ。 [Letter] 「…あれ?」 ちょうどその頃、彼が先ほどいた場所に一人の女性が入ってきた。 エアリス本人だ。年の頃は17・8といったところだろう。 いつもは上で束ねている茶色の髪を珍しくおろし、ピンクのワンピースに白の上着という格好をしていた。 部屋の質素さに比べると女の子らしい可愛い服装である。 そんな彼女が声を出したのはふと、机に目を向けた時だった。 一枚の紙が机の上に置いてある。 (私、こんなところに置いたかな? 紙なんて…) そう思いながら紙を開いてみる。 そこには一言「遠くに行っても頑張れ」としか書いてなく、普通の人ならただの紙だと思って捨ててしまうだろう。 もし捨てなかったとしても差出人を特定することなど不可能に近い。 「これ…クラウドからだ…」 だが、彼女は違った。すぐに彼からの手紙だと分かったのだ。 クラウドとエアリスは特別親しいわけではなかった。 同じクラスメートで一緒にビデオを見たり、話をすることはあったが、お互い友達と言う意識しか持っておらず、それ以上でもそれ以下でもなかった。 だが、普通のクラスメートと同じかというとそうでもなかった。 お互いに大事な存在ではあったからだ。 しかし、この時点で二人が自分の気持ちに気付く事はない。 それはもっと先の話なのだから…。 彼女は、はっと我にかえった。 手紙を持ったまま立ち尽くしていたのだ。 実際には数秒でしかなかったその時間は彼女には数十分にも感じられた。 (…クラウド…!!) そう心の中で叫びながら彼女は手紙をにぎりしめたまま、部屋を飛び出していた。 そう、彼は知っていたのだ。 卒業後、彼女が遠くの学校に進学し、会えなくなってしまうことを。 本当はもっとたくさん書きたいことはあったのだが、不器用な彼にそんなことはできなかった。 ただ一言「頑張れ」と書くのが精一杯だった。 一方、クラウドはというと、部屋の中で何やらうろうろしていた。 腕を組み、右に行ったり左に行ったり。 あるいはイスに腰掛けたりベッドで横になってみたりしている。 どうやら落ち着かないらしい。 (やっぱりあんなことするんじゃなかった。今さら後悔しても仕方ないが…しかし…うーん…) などと一人で考えこんでいた。 あんなことというのはもちろん、さっきの手紙の件だ。 彼は先ほど自分がとった行動がひどく恥ずかしく、後悔の念にさいなまれていた。 そんな時、「コンコン」と部屋の扉を誰かがノックする音が聞こえた。 「…クラウド、いる?」 エアリスだ! 先ほど部屋を飛び出してまっ先にここに来たらしく息が切れている。 彼は慌てた。今、一番会いたくない彼女が扉の向こうにいるのだ。 (なんとかして逃れる方法はないか?!) そんな彼の心を知ってか知らずか、彼女はなおも呼び掛けてくる。 「クラウドー! いるんでしょ? 開けるからね?!」 ついに業を煮やした彼女が扉を開けた。 だが! 「…あれ?いない??」 その部屋に彼の姿は確認できなかった。 彼女は仕方なく「おじゃましました」と言ってその部屋を後にした。 …間一髪だった。 扉がきちんと閉まったのを確認して、彼はベッドの下から出てきた。 彼女が今にも扉を開けるだろうその時、とっさにベッドの下に潜り込んだのだ。 「ふぅ…。なんとかごまかしきれたというか逃げられたと言った感じか。問題はこれからどうするか、だ。エアリスの事だから見つけるまで探すだろうしな…」 彼はまた悩んでいた。 なんとか彼女から逃れる方法はないか。 そんな時だった。 彼の脳裏に一つの案が浮かんだ。 それはただこの部屋を出る事だったのだが、今の彼には重大な案のように感じられた。 「このままここにいてもいつかはバレるだろう。だったら多少危険な賭けではあるが、この部屋をでて別の場所に隠れるとしよう、うん。」 そんなことをぼやきながら彼は部屋を後にした。行き先はもちろん決めてない。 そうこうしているうちに彼女に見つかってしまうかもしれない。 彼は内心ドキドキしながら、廊下を歩いていた。 いつもすぐに目的の場所についてしまうのに今日はなんだかひどく長く感じた。 それはやはり、彼がちょっとした物音でビクっとなり、足を止め周りを確認し、また歩き出すという行動を繰り返しているからだろうか。 それとも… 「あー! クラウド、やっと見つけたー!!」 突然彼の背後から叫び声ともとれる大きな声が聞こえてきた。 その声はまぎれもなくエアリスのものだった。 はぁはぁと苦しそうに呼吸している。 彼を探す為にあちこち走り回ったのだろう。 顔は汗だくになり、ウェーブのかかった綺麗な茶色の髪も無造作に乱れている。 (ヤ…ヤバイ…) 殺気立っているようにも聞こえる彼女の声に危険を感じたクラウドは、一度は立ちすくんでしまったが、すぐにその場を離れようと足を進めた。 その時 「…ありがとう!!」 意外な言葉が聞こえてきた。 絶対怒られると思っていた彼は正直驚いた。 恐る恐る振り返った彼をその場から動けなくさせたのは、手紙を握り締め息を切らしながらも微笑む …彼女の満面の笑みだった…………。 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 姉さんからクラエア小説をいただきましたーvvv クラウドの不器用さとエアリスのかわいらしさが存分に表現されていると思います☆ それになんといっても最後の終わり方がなんともエアリスらしくて良いですよね(><) こういったパラレル設定を書いたことない私にとってとても新鮮でしたvv 姉さん、本当にどうもありがとー○(≧▽≦)○ |