何気ない日が続いてた。  少なくとも僕にとっては何の変哲もない毎日だった。
「おはようございますー」
にこやかに挨拶し、僕は予定表の数字を見た。
今日の僕は『6』。
まぁまぁといったところだろう。
この6という数字。何かと言うと僕の仕事場、Yマートのレジ番号だ。
人間関係のこじれから前の会社を辞め(どうせひきとめてもくれなかったさ)、このスーパーに来たのが3ヵ月前。
まるで、夢のような待遇のよさに内心、ドキドキしながら仕事を続けてた僕の前に突然、アイツがやってきた。
6レジに入るまでに10〜7レジまでの人に挨拶をして休止の札をはずす。
と、5レジに見知らぬ人がいた。新しいバイトでも入ったのだろう思い、声をかけた。
「おはようございますー」
「あ。おはようございます」
振り向きざまに挨拶をしてきた奴はなんとも言えぬ格好をしていた。
付けているエプロンこそ、店のものだが、頭にはバンダナを巻いているし、それ以外にもやたらと髪や瞳の色が目立ってた。
ほんと、よくこんなやつが面接通ったよなって心のそこから思ったくらいだ。
「新しく入りました、カディナと言います。どうぞよろしく」
ぺこりと頭を下げて挨拶する、目の前の男―カディナ―に一瞥をくれる。
名前からしてどこか他の国の人らしい。どうりで頭が金髪なはずだ。
「あ。僕は直樹。村上直樹。直樹でいいよ」
「よろしくです! 直樹さん」
にかっと笑うとまるで少年のようだった。
第一印象ではまぁ、いい感じの子だなって思った。ちょっと変なのは生まれた国の違いだろうと。
でも、カディナの変ぶりは服装だけにとどまらなかった。
それは、バイトが終わった後のロッカー室のこと。
隣で着替えてるカディナを見ると、ロッカーから何やら剣っぽいものを取り出してた。
RPGとかで見かける勇者の剣って感じのやつだ。
一見しただけはわからないのかもしれないけど、どうも本物っぽい感じがする。
「? どうかしましたか? 直樹さん」
「いや。………なんだ? その格好」
「これ…ですか??」
カディナはきょろきょろと自分の服や持ち物を調べ始めた。
見ればみるほど変なものばかりだ。
まるで、ゲームの主人公が召還されたような…ってまてよ? まさか?!
「…なぁ。カディナ」
「何でしょう?」
「まさか…お前…」
「??」
そこまで言いかけて思いとどまった。いくら何でもそんなことがあるわけないよな。
きっとコスプレ好きの勇者マニアかなんかだろう(だからって店でその格好はなぁとも思ったけど)って思い直して聞かないことにした。下手に関わりたくなかったって思わないこともなかったけど。
「なぁ。カディナの家ってどのへんなの? 僕と近いなら一緒に…」
「ユーリティア」
「へ?」
「ユーリティアって国で王様の元で働いてたんだ」
一瞬、目の前が真っ白になった僕の頭の中で某ゲームの音楽が流れ始めてた。
そんな僕に気付いているのか、いないのか。
カディナは誰に話すでもなく、遠い目をしながらポツリポツリと話し出した。
聞いた所によると、カディナは16歳という若さで剣士の職に就き、その才能を認められて数カ月で王様の元で働くことになったらしい。
「で、気付くとこの世界に来てたってわけです。始めは、誰かの仕掛けた罠かと思ったんです。それか、魔法使いの仕業かと。ですが、どうも違うようなのですよ。僕はある人に会う為に…ここへ呼ばれたんだと思うんです」
「ある人…?」
「ええ。それは…」



夢だと気付くにはあまりに遅すぎた。時計を見てからそれに気付いた。
時刻は午後3時を少し過ぎたところ。
「やっばーい!!4時からバイトだったー!!」
急いで着替えて走ってバイト先へ。
タイムカードを切ってエプロンを付けると走って(もちろん店内は早歩きだけど)カウンターへ。
いつも通りに鍵を受け取って休憩を確認。
挨拶しながら自分のレジへ。
前のレジに見知らぬ人を見かけて声へかけた。
…それは夢と同じ、カディナだった…。




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