風がおだやかで波もほとんどない。
昼中の割には日差しもそんなに強くない。
見上げた空はどこまでいっても雲一つなく青の絵の具をぶちまけたスケッチブックのようだ。
造られたモノ。それを言えば、俺もこの空も同じなのかもしれない。
「何、してるの?」
ふいに声がかかった。愛しくて恋しくて仕方ない人の声。おだやかで暖かくて優しい、声。
「…別に」
本当だった。別にこれといって何かしていたわけじゃない。ただそこにあったから見ていた−ただそれだけ。
「ふーん…そう」
特別、尋ねてくる様子もなく、隣へと腰を落ち着ける。ちらりと視線だけで見やると彼女も同じように空を見上げていた。
無言の時がどれくらい続いただろうか。不思議と苦痛には思わなかったがかなりの時間だと思う。
「本物の空...」
ぽつりと呟く声。彼女の言葉に一瞬、恐怖にも似た感情が空だの中をかけめぐった。
「本物、偽物。この空はどっちなんだろね?」
「偽物だろ? こんな作り物の空は」
「そうかな? 私には本物に見えるよ?」
ふわりと花のように微笑む。そのあまりの綺麗さに言葉を失った。
「例え、作り物の空だとしても、自分が本物だと思っていたらまぎれもなく、それは本物なんだよ。夢だって信じれば叶うし、信じて進まなければ決して叶わない」
「むちゃな言い分だな」
「もうっ! どうしてクラウドはそんな風にしか考えられないの?!」
がっくりとうなだれつつ、つぶやいた。
「こんな世界であんたみたいに生きるのは難しい。ましてや、夢を探すのも追うのも無理だ」
「そう、かな? 本当のところ、みんな心の中では夢を叶えたいって思う気持ちがあるんじゃないかな? でも、それを素直に表に出せないだけ。クラウドにもあるんでしょ?」
「どうかな?」
「あるよ! きっとある。もし、今、なかったとしてもこれから見つけられる。一緒に探そ?ね?」


風が吹いた。波一つなかった草原の葉が風にゆられていく。
一緒に探してくれるハズの人はもういない。オレ一人を残し、消えてしまった。
彼女の消えた後、皮肉にも夢は見つかった。―未だ叶う兆しすら見えてはいない。だけど、いつか叶えてみせる。
―この世界のどこかにいる君を見つけだす―
だからもう少し待っていて。必ず迎えに行くから。
その時はまた、あの花のように微笑んで。



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