「エアリス・・・エアリス!!」 その名を呼び、うなされるように俺は目覚めた。 服も布団もぐっしょり濡れ、目尻には涙の跡がはっきりと残っていたが、そんなことに構わず、すぐさま俺は彼女の部屋へと急いだ。 「エアリス!!」 そう彼女の名を呼びながらドアを開けた。 部屋の中でエアリスは胸の前で手を組み、まるで死んでいるかのように眠っていた。 「エアリス…エアリス!!」 俺はエアリスの体を揺すり、名を呼んだ。 「う…うーん…」 エアリスはゆっくりと目を開け起き上がるとまだ眠そうな目をこすりながら目の前にいる俺を見た。そして 「おはよう、クラウド」 そう言っていつもの通り微笑みかけてくれた。 俺は全身の力が一気に抜けていくのがわかった…と同時にその場に座りこんでしまった。 「どうしたの?」 と優しく声をかけられた俺は膝を抱え、うずくまりながら言った。 「怖い…とても怖くて恐ろしい夢を見たんだ」 「怖い…夢?」 「……あぁ」 そう言いながら俺は今朝見た夢をゆっくり話し始めた…。 俺が朝、いつも通りに目覚めると別荘の中が少し騒がしかった。 どうしたのだろうと部屋のドアを開けてみるとそこにはティファが立っていた。 それだけなら何も気にとめることはなかったのだが、ティファは泣いていたんだ。 「何があったんだ?」 そう俺が訪ねるとティファは涙でぬらした顔をあげてこう言ったんだ。 「エアリスが……エアリスがぁ!!」 「エアリス?! エアリスがどうしたんだ?!」 俺はティファの肩をもち、揺すりながら半ばどなるように尋ねた。 だが、そこまで言ったティファはその場に泣き崩れてしまい、それ以上聞くことができなかった。 俺は嫌な予感がして急いでエアリスの部屋へと駆け込んだ。 そこにいるユフィやバレット、レッド、シド、ケットシーそしてヴィンセントの誰もが涙してた。そしてベットの上では死んだように眠るエアリス。 俺が動揺しつつも部屋に一歩入った時、その場にいた誰もがこちらを向いた。 そして、ケットが近づいてきていきなり胸ぐらをつかみ壁に押し当てられた。 「クラウドはん! 何でやねん…なんでエアリスはんがこうなる前に気付いてやれへんかったんや!! あんさんが一番エアリスはんの側におったのに…。なぁ?なんでや!!」 そこまで一気にまくしたてると、急にだまりこんでしまった。 それを見たヴィンセントとシドがこちらに近づいて来てケットシーをなだめるように背中を叩くとそろって部屋をあとにした。3人が出ていくのと一緒にレッドも部屋をあとにした。 バレットが去り際にこう言った。 「クラウド………エアリスの側に行ってやれ」 俺はまるで誘われるかのようにエアリスの側へと足をすすめた。 すると側で声を押し殺して泣いていたユフィがゆっくりと顔を上げた。 「エアリスね。クラウド…クラウド…って必死に名前呼んでたよ。でも、ティファがクラウドを呼びに行った時、静かに眠りに入っちゃった。それからはもう目を覚まさないの。なんで起きてくれないんだろうね。本当、眠ってるだけなのに…」 それだけ話すと耐えきれなくなったのか再び涙を流しながらその場を後にした。 ―バタン― ゆっくりとドアの閉まる音がした。 俺はベットの脇に座りこみ、エアリスに話し掛けた。 「やったな。大成功だよ!! あん演技上手いんだな。もう少しで俺までだまされるとこだったよ。でも、こういうイタズラはあんまり良くないな。みんなと俺の心臓に悪い」 乾いた笑いが部屋に響く。だがエアリスからの返答はなかった。 「もう、いいかげん起きてやれよ。みんな、あんたが死んだって大騒ぎだぜ? ………なあ。なぁ、起きろって。嘘だろ? 全部あんたの演技なんだろ? 早く起きて一緒に泣いてるみんな驚かしてやろうぜ? …起きろよ。なぁエアリス! いつものように俺に笑いかけてくれよ!! 『どうしたの?』って言ってくれよ! なぁ!! エアリスー!!!!!」 「そこで目が覚めたんだ。でも、もしかして本当にあんたがいなくなってたら…。そう思うといてもたってもいられなくて急いで来たんだ。本当に…夢で良かった…」 そこまで話してふと自分が泣いてることに気付いた。 「大丈夫だよ、クラウド。私はここにいる。どこにもいったりしないから。安心して。絶対にあなたの前からいなくなったりしないから。絶対に」 そう言っていつもの笑顔を向けてくれた。 「あぁ。そうだな」 「だけど驚いたなぁ。クラウドがそこまで私のこと思ってくれてるなんて」 「いや、これはなんていうか…」 「ありがとね。すごく嬉しかった」 「エアリス……」 ふと顔をあげるとエアリスもこちらを見返してきていた。 自然とお互いの顔が近づく…そして…。 むに。 一瞬何が起きたのかわからなかった。だが次の瞬間はっきりした。 おれは両頬をエアリスにつままれていたのだ。 「え、へふぁりしゅ…?(エアリス?)」 「今度そんな夢見たら許さないからね! 絶対。わかった?」 「……ふぁい」 「よし! じゃあ今回だけは許してあげよう!」 と引っ張っていた頬をいきなり離した。 ひりひりする頬をさする俺をエアリスは楽しそうに見ていた。 「ちぇっ。エアリスにはかなわねーや」 そしてどちらかともなく笑い声がもれる。 それはとてもあたたかい夏の日差しが差し込む日だった。 俺達はいつまでも笑っていた。 |